英単語を覚えたはずなのに翌日には出てこない。社会の用語を何度も読んだのに、テストになると思い出せない。漢字を練習した直後は書けていたのに、数日後にはまた間違えてしまう。
こうした様子が続くと、「うちの子は暗記が苦手なのでは」「記憶力が弱いのでは」と心配になることがあります。
しかし、暗記した内容を忘れること自体は特別なことではありません。人の記憶は、一度覚えればそのまま残り続ける仕組みにはなっていないからです。大切なのは、忘れないように一度で完璧に覚えようとすることではなく、忘れることを前提にして覚えた内容をもう一度思い出すことです。
その考え方を理解するうえで役立つのが、心理学者ヘルマン・エビングハウスの研究で知られる「忘却曲線」です。
この記事では、忘却曲線が本来何を示しているのかを確認しながら、子どもが覚えた内容を記憶に定着させる暗記法と復習のコツを、明光義塾の学習指導の視点から解説します。
忘却曲線とは?「覚えてもすぐ忘れる」記憶の仕組み


暗記した内容を数時間後や翌日に忘れてしまうと、「せっかく勉強したのに意味がなかった」と感じるかもしれません。しかし、人の記憶は時間の経過とともに思い出しにくくなる性質があります。まずは忘却曲線のもとになった研究を知り、なぜ覚えたことを忘れるのかを理解しておきましょう。
エビングハウスの実験でわかった記憶と忘却の仕組み
忘却曲線は、ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスが19世紀に行った記憶研究から広まった考え方です。
エビングハウスは、自分自身を実験対象として、意味を持たない綴り(無意味綴り)を覚え、それを一定時間後にもう一度覚え直す実験を行いました。
ここで重要なのは、忘却曲線が単純に「何%の情報を忘れたか」を測ったものではないという点です。エビングハウスが使った代表的な指標は、一度覚えた内容を再び学習するときに、最初よりどれくらい学習時間を短縮できたかを見る「節約率」と呼ばれるものです。
つまり、思い出せなくなっていたとしても、最初から覚える場合より早く覚え直せるのであれば、一度作られた記憶が完全に失われているわけではありません。
インターネット上では「20分後には何%忘れる」「1日後には何%忘れる」といった数字が忘却曲線として紹介されることがあります。しかし、こうした数字をそのまま小学生や中学生の学校学習に当てはめることは適切ではありません。
英単語、漢字、歴史用語、理科の知識では、本人の予備知識や理解度、覚え方によって記憶の残り方が変わるからです。
忘却曲線から学ぶべきなのは細かな数字ではなく、「時間がたつと記憶は思い出しにくくなる」「一度学習した内容は、再び触れることで学び直しやすくなる」という基本的な仕組みです。
覚えた内容は時間とともに思い出しにくくなる
学校の小テスト前に英単語を10個覚え、その直後に確認すると全部答えられた。この状態になると、多くの子どもは「もう覚えた」と感じます。
ところが、その時点で答えられることと、翌日や1週間後にも答えられることは同じではありません。
学習直後は、つい先ほど見た情報が頭に残っているため、比較的簡単に答えられます。その後、時間がたつにつれて手がかりが弱くなり、同じ情報を取り出しにくくなっていきます。
厳密には、記憶そのものが突然消えているとは限りません。「知っているはずなのに出てこない」という状態もあるためです。そのため、暗記では「覚えたかどうか」だけではなく、「時間を置いてから自力で思い出せるか」を確認することが重要になります。
暗記が苦手に見える子どもの中には、学習直後には確認していても、時間を置いて確かめる習慣がないことがあります。
意味づけできない情報は記憶の手がかりが少ない
エビングハウスが実験で意味のない綴りを使ったのには理由があります。すでに知っている言葉や意味のある文章を使うと、過去の知識や経験が記憶を助けてしまうからです。
学校の暗記でも、この「意味とのつながり」は役立ちます。
例えば、歴史上の出来事を年号だけで覚えようとすると、年号だけがほかの知識から切り離されやすくなります。一方で「その出来事の前に何が起こったのか」「なぜ起こったのか」「その後どうなったのか」までつながっていると、思い出すための手がかりが増えます。
英単語も同じです。英単語と日本語訳だけを機械的に結びつけるより、例文や場面と一緒に覚えた方が、あとから思い出すための入口を作りやすくなります。
暗記というと、意味を考えず何度も繰り返す作業を想像しがちですが、記憶に定着させたいのであれば「すでに知っていることと結びつける」ことも大切です。
なぜ子どもの暗記は記憶に定着しないのか


暗記が定着しない原因は、必ずしも記憶力そのものにあるとは限りません。覚えた直後に勉強を終えてしまったり、テスト直前だけに集中して覚えたりすると、時間がたったあとに思い出しにくくなります。特に多いのが、一度覚えて終わりにすること、一夜漬けに頼ること、忘れることを前提にしていないことです。
一度覚えて満足し、復習をしない
暗記でよくある失敗は、「覚えた瞬間」をゴールにしてしまうことです。
英単語帳を見ながら意味を言えた。教科書を読み直したら内容が分かった。ノートを見れば用語を答えられた。こうした状態では、本人も「覚えた」と感じやすくなります。
ところが、見れば分かることと、何も見ずに思い出せることには差があります。
教科書を何度も読むと文章に見覚えが出てくるため、記憶できているように感じます。しかし、テストでは教科書を見ながら答えることはできません。必要なのは、問題を見たときに自分の記憶から答えを取り出す力です。
そこで暗記を終える前に、一度教材を閉じてみます。そして「何も見ない状態でも答えられるか」を確認します。
読む回数を増やすだけではなく、思い出す回数を増やす。この違いが、暗記を長く残すうえで重要になります。
テスト直前の一夜漬けに頼ってしまうこと
一夜漬けで勉強すると、その日のうちであれば多くの情報を覚えられることがあります。そのため、「短時間で一気に覚える方が効率がいい」と感じる子どももいます。
しかし、短時間に学習を集中させる方法は、時間を空けて何度か学ぶ方法と比べると、長期的な定着では不利になりやすいことが分かっています。
定期テスト対策でも、この違いは無視できません。中学校や高校の学習では、前の単元で覚えた知識を次の単元でも使います。英語の単語や文法、数学の公式、理科や社会の基本用語は、一度テストが終われば不要になる知識ではありません。
テスト前日に大量に詰め込むより、同じ内容へ何度か戻る方が、その後の学習でも使える記憶になりやすくなります。
一夜漬けをした結果、翌日に点数が取れたとしても、それだけで暗記が定着したとは言えません。1週間後や1か月後にも使える知識になっているかまで考える必要があります。
忘れることを前提にしていない
「昨日覚えたのに、もう忘れた」と落ち込む子どもがいます。
しかし、学習では忘れること自体を失敗と考える必要はありません。むしろ、一度忘れかけた内容をもう一度思い出そうとすることが、記憶を強くする機会になります。
問題になるのは、忘れたことではなく、その内容へ二度と戻らないことです。
例えば月曜日に覚えた英単語を、その日のテストで全問正解したとします。その後一度も確認せず、2週間後に再び出てきたときに忘れていたとしても、不思議なことではありません。
最初から「一度で覚え切る」のではなく、「何度か思い出しながら残していく」と考える方が、記憶の仕組みに合っています。
忘却曲線から考える、記憶を定着させる復習のタイミング


記憶を定着させるためには、復習することだけでなく「いつ復習するか」も大切です。覚えた直後に何度も繰り返すだけではなく、少し時間を空けてから再び思い出すことで、長く残る記憶につなげやすくなります。ここからは、家庭学習でも取り入れやすい復習の考え方を紹介します。
復習の最初の目安は翌日
暗記した内容は、まず翌日に一度確認してみるのがおすすめです。
ここで大切なのは、最初から答えを読み直さないことです。
英単語なら日本語訳を隠して意味を答える。漢字ならお手本を隠して書く。社会なら用語を隠して説明してみる。このように、先に自分の記憶から答えを取り出してみます。
翌日にもう一度取り組むと、「昨日は言えたのに今日は出てこない」という問題が見つかります。これは悪いことではありません。むしろ、どの知識がまだ不安定なのかが分かった状態です。
思い出せなかったものは答えを確認し、そのあとでもう一度、何も見ずに答えてみます。
なお、「必ず24時間後でなければ効果がない」という意味ではありません。復習に最適な間隔は、覚える内容や本人の習熟度、どれくらい先まで覚えておきたいかによって変わります。翌日は、家庭学習に取り入れやすい最初の目安として考えるとよいでしょう。
数日後・1週間後と少しずつ間隔を空ける
翌日に答えられた内容も、それで終わりにせず、次は少し間隔を広げて数日後にもう一度確認します。さらに答えられたものは、1週間ほど空けてから再度確認します。
同じ内容を1日に何度も続けて見るより、時間を空けて再び取り出す方が、長期的な記憶につながりやすいことは、分散学習と呼ばれる研究でも繰り返し確かめられています。
例えば、英単語を30回続けて読むのではなく、学習する日を分け、そのたびに意味を思い出してみます。
ここで重要なのは「翌日、3日後、7日後」という日数を絶対的な公式にしないことです。
すぐ忘れる単語であれば間隔を短くし、何度確認しても答えられる単語であれば次の確認までの間隔を長くします。記憶の状態を見ながら間隔を変えていく方が実践的です。
答えを見ずに「思い出す」時間を作る
記憶を定着させるうえで、もう一つ重要なのが「思い出す」という行為そのものです。
勉強というと、教科書を読む、ノートを見る、単語帳を見るといった「情報を入れる学習」が中心になりがちです。
しかし、テスト本番で求められるのは、頭の中にある情報を取り出すことです。
そのため普段から、答えを隠して自分で答える、何も見ずに説明する、白紙に書いてみるといった練習を取り入れると、記憶の定着に役立ちます。
少し考えれば思い出せそうなときこそ、自分の力で答えを取り出す練習になります。
ただし、長時間考えてもまったく出てこない場合に、ずっと悩み続ける必要はありません。いったん正しい答えを確認し、その直後にもう一度隠して答えます。
暗記では「答えを見ること」を減らすだけでなく、「答えを見たあと、自力でもう一度出せるか」まで確認することが大切です。
家庭で実践できる、忘却曲線の考え方を踏まえた暗記法


忘却曲線の考え方は、特別な教材を用意したり、勉強時間を大きく増やしたりしなくても家庭学習に取り入れられます。ポイントは、暗記した内容を一度で終わらせず、少し時間を空けながら自分の力で思い出す機会を作ることです。普段の家庭学習に加えやすい方法を紹介します。
覚えた内容をその日のうちに一度だけ振り返る
新しく覚えた内容は、勉強を終える前に一度だけ確認してみましょう。
ここでも、教科書や単語帳をもう一度最初から読む必要はありません。
その日に覚えた英単語の意味を隠して答える。社会で習った出来事を自分の言葉で説明する。漢字のお手本を隠して書く。まずはこうした短い確認から始められます。
目的は、学習時間を長くすることではありません。「見ながら分かる状態」から「見なくても出せる状態」へ移れているかを確かめることです。
間違えた部分だけ答えを確認し、もう一度自分で答えます。すべてを最初からやり直す必要はありません。
暗記量が多い日は、思い出せなかった内容を優先して見直し、答えられた内容も次の復習日にもう一度確認するとよいでしょう。
暗記した日と次の復習日をメモする
復習が続かない大きな理由の一つは、「あとで復習しよう」と考えたまま、その日を決めていないことです。
暗記した日に、次に確認する日まで決めておくと、復習を抜かしにくくなります。
例えば9月1日に新しい英単語を覚えたのであれば、9月2日に一度確認し、その後は数日空け、さらに時間を空けて確認します。
カレンダーや学校の手帳、学習用ノートなど、普段目にする場所に復習日を書いておくと続けやすくなります。
ここで作り込みすぎた学習スケジュールは必要ありません。「いつ覚えたか」と「次にいつ確認するか」が分かれば、復習しないまま日が空くのを防ぎやすくなります。
また、毎回答えられる内容は確認の間隔を広げ、何度も間違える内容は早めに触れ直します。同じ教科でも、すべての知識を同じ頻度で復習する必要はありません。
声に出す・書くを「思い出す練習」と組み合わせる
暗記するときは、黙って読むだけでなく、声に出したり、自分で書いたりする方法があります。
声に出して読むことで記憶成績が高まる現象は「プロダクション効果」と呼ばれます。7〜10歳の子どもを対象にした研究でも、黙読した語より、声に出して読んだ語の方が記憶に残りやすい結果が報告されています。
ただし、「五感をたくさん使えば必ず覚えられる」と単純に考えるのは避けたいところです。
声に出すのであれば、答えを見ながら何度も読むだけではなく、問題を見て自分で答えを言う。書くのであれば、見本を10回写すだけではなく、一度見本を隠して自力で書く。こうすることで、「声に出す」「書く」という動作と思い出す練習を組み合わせられます。
例えば英単語なら、英単語を見て日本語訳を声に出すだけでなく、日本語訳を見て英単語を言えるかも確認します。漢字なら、お手本を見ながら書いたあとに一度隠し、自分だけで書けるか試します。
漢字そのものの覚え方については、漢字が覚えられない子どもの特徴と、効果的な覚え方のコツでも詳しく紹介しています。
大切なのは、書いた回数や読んだ回数を増やすことではなく、自分の記憶だけで答えられた回数を増やしていくことです。
暗記が苦手な子どもを支える保護者の方へ


子どもが同じ内容を何度も忘れていると、「もっと繰り返し勉強させた方がいいのでは」と考えたくなるものです。ただ、忘れる回数だけで「記憶力がない」と決めることはできません。勉強量だけでなく、いつ復習するか、答えを見ずに思い出せているかにも目を向けてみましょう。
塾で生徒を見ていると、覚えられないのではなく、覚えた直後しか確認していなかったり、教科書を読むだけで暗記を終えていたりすることがあります。
そうした場合は、勉強時間を単純に増やす前に、暗記のやり方を変えてみることが大切です。
その日のうちに一度思い出す。翌日にもう一度答える。数日後に確認する。さらに時間を空けて思い出す。こうして繰り返し思い出すことで、覚えた内容を時間がたっても取り出しやすい記憶にしていきます。
保護者の方が家庭で声をかける場合も、「何回書いたの?」「ちゃんと覚えた?」だけではなく、「何も見ないで答えられる?」「昨日覚えたところをもう一度やってみよう」と確認すると、暗記の方法そのものを変えるきっかけになります。
一方で、同じ方法がすべてのお子さんに同じように合うわけではありません。どの教科で忘れやすいのか、理解はできているのに思い出せないのか、そもそも内容の意味が分からないまま覚えようとしているのかによって、必要な学習は変わります。
明光義塾では、一人ひとりの理解度や学習状況を確認しながら、覚えるだけで終わらず、自分で思い出して使える状態を目指して学習を進めています。
「勉強しているのになかなか覚えられない」「テストになると覚えた内容が出てこない」「どんな暗記法が合っているのか分からない」とお悩みの場合は、お近くの明光義塾までお気軽にご相談ください。
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